大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和31年(う)1900号 判決

被告人 渡辺貢

〔抄 録〕

所論により本件記録を調査し並びに当審における事実の取調の結果を総合すれば原審が本件土地を農地であると認めたのは相当であつて原審には所論のように事実誤認の違法があるとは認められない。

蓋し農地法にいわゆる農地とは耕作の目的に供する土地を云うのであるが、(同法第二条)当該土地が農地に該当するかどうかは、当該土地の主観的な使用目的や公簿上の地目の如何に拘わらずその土地の現状における客観的な事実状態によりこれを判断すべきものである。

しかして本件記録に徴すれば本件土地は昭和十九年春頃までは杉、松等の生立している山林であつたが、当時当局より供木を命ぜられた為これを伐採供出することとなつた際、農業を営んでいる岡田石松、若月盛三郎、大湊蔵吉等(本件耕作者等の一部)がその伐採跡を耕作させてくれるよう申し入れ、当時食糧増産の要望も強かつたので被告人は本件耕作者等との間に右伐採跡地を畑地として貸与することを承諾し関係者立会の上伐採地跡の区劃を定めて各耕作者に割り当て各自開墾耕作させることとし、同年九月末頃若月福松を耕作者代表として、本件土地につき耕作契約書(当庁昭和三一年押第六二四号の一、二)を作成し、耕作期間は昭和二十年一月一日より十年間とし、小作料は昭和十九年度はこれを徴収せず昭和二十年以降は毎年反当り米四斗の割合による米価換算額を金納すること、耕作者は期間中、年一日男大人一人の労力を被告人に提供すること等を約し、(因に当審における事実取調の結果によれば右小作料その他の負担は一般畑地の小作料等と大差ないものである)爾来本件耕作者等は割当にかかる土地を開墾の上、麦、豆類、馬鈴薯、甘藷、大根、その他の蔬菜類等を栽培し適宜施肥、消毒等を行つて来たものであるが、被告人は昭和二十九年末を以て右期間満了と共に本件土地の返還を受けて、桐杉等の外林檎梅等の果樹を植えようとし、同年十一月頃前記若月福松を通じ、本件耕作者等に同年度の収獲を収めた上は右土地を返還されたい旨を申し入れて、賃貸借の期間の更新をしない旨を通知したのである。

而して本件土地は新潟県三条市上保内部落の最東南の家より山路を東南方に約五百米位上つた所にあり、その隣接する土地と併せて南北約百三十米東西約二百八十米位の丘陵状の平坦な台地をなし南、東、北方は川又は水流に挾まれて崖状をなし、そこには雑木が繁茂しているが、台地上には大きな樹木も少く、昭和三十年四月十四日(仮処分執行当時)には本件土地は殆ど全部開墾の上畑として使用され、約二間位の距離をおいて桐苗・果樹苗等を植林し一部は野菜を播種した状況にあり、昭和三十一年五月十六日(原審検証当時)には本件土地は整然と区劃されており全域に亘り、桐杉、梅林檎等の苗が植えてある外約半位の地域に麦、馬鈴薯、大豆、ほうれん草等が植付けられその他の部分は昭和三十年雪解後は耕作を中止している状況であり(前記桐、杉苗並びに果樹苗等は本件更新拒絶後の植栽にかかることは被告人の自認しているところである)、その位置、地形並びに利用状況等から見て農耕の用に供しうる土地と認められる。

叙上本件本地の位置、地形、土地の利用状況、本件土地賃貸借契約が締結されるに至つた事情、当事者の地位職業、右契約の内容、期間、並びに土地の耕作状況等を総合するときは、本件土地は山林伐採跡を開墾し、本件当時畑地として耕作の目的に供せられていたものと認めるのが相当であり、即ち本件土地は農地法所定の農地に該当するものであり被告人が新潟県知事の許可を受けないで賃貸借契約の更新をしない旨を通知したのは農地法第二十条一項に違反するものと云うべきである。

然るに弁護人は本件はいわゆる「カンノウ畑」即ち山林の伐採跡地を次に植林するまでの間地味を柔らげるため蔬菜畑等として、一時耕作させたものであつて、小作人の耕作は植林の為の準備行為に過ぎない、即ち本件土地は、本来の目的たる植林の目的に反しない範囲内において一時耕作されているに止まり「耕作の目的に供せられている土地」には当らないから農地には該当しないと主張する。

そこで本件記録を調査し並びに当審における事実の取調の結果を総合すると、被告人住居地附近ではかなり広い地域において、山林の伐採跡を「カンノウ畑」として他人に一時耕作をさせる慣習があること、そしていわゆる「カンノウ畑」と認められるときは、その土地は農地委員会が農地としてその対象としない例であることが認められるが本件を農地として買収の対象としなかつたのは当事者より農地としての届出もなくまた農地委員会としても調査不十分に起因したもので(当審証人山田勝蔵の供述参照)本件を農地と認めなかつた為ではない。そしていわゆる「カンノウ畑」と認める為の要件として当審証人山田勝蔵、金子石三郎、馬場宏、近藤久彌、青木勇、高橋健次郎の各供述は帰一せず必ずしもこれを明確に把握することができないのであるが、前示各供述を総合すれば要するに「カンノウ畑」とは山林の伐採跡地を次の植林までの間一時他人に耕作させる場合をいい、通常その期間は短く、(当審証人山田勝蔵の供述によれば「カンノウ三年」と云つて期間は通常三年と云うことになつていると云う)次の植林によりその耕作を中止することは当事者間に当然諒解されており、右耕作については一般に契約書も作らず、小作料もこれを定めないか又は伐採跡地の木根を掘起し、開墾する等の労務提供に止るか或はこれに準ずる程度の軽微な負担であるのを例とする。要するにいわゆる「カンノウ畑」が農地法所定の農地として取り扱われないものとすれば、その所以は、その耕作が次の植林を前提とし、その間の一時的な耕作にすぎず、耕作者の権利が未だ「耕作権」として農地法所定の保護の対象となる程度に達しないことに由るものと解することができる。

しかるに本件土地に関する耕作関係を見ると本件土地につき賃貸借契約が締結されたのは当時木材供出の為山林を伐採した跡地を食糧増産の要請から本件耕作者等に耕作させる為であつて、近い将来において再びその地に植林することを当事者間において予定していたものとは認められない。またその耕作期間も一応十年と定められており、小作料その他の負担も他の一般畑地に比し特に軽減されているとは認められない。更に本件耕作者等は契約締結後本件土地を開墾し右のように長期間肥培管理を行い麦、豆、藷類、蔬菜等を栽培し約定の小作料を支払い来つたものであるから、これらの事情を総合考察するときは本件は所論のように、山林伐採跡地をいわゆる「カンノウ畑」として耕作させた場合と同一視することはできず、本件土地は農地法所定の農地に該当するものと認めるのが相当である。

また被告人が本件土地につき造林補助金の交付を申請しその交付を受けたとしてもこれを以て本件土地を農地でなく山林と認むべき証左とするに足りないことは論旨第二点において説示するとおりである。

故に論旨はすべて理由がない。

(谷中 坂間 荒川)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!